北ヨーロッパの国名の由来

まずはイギリスと北欧から。
日本人になじみの深い国ですが、名前の意味となると意外と知られていません。
イギリス=「入れ墨をした人々の島」
正式名称は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」。
「ブリテン」は、この島に住んでいたブリトン人に由来します。
古代ローマは彼らの土地を「ブリタニア」と呼びました。
その語源は「入れ墨をした人々」を意味するケルト系の言葉だとする説があります。
体に模様を描く習慣が、そのまま島の名前になったという説明です。
日本語の「イギリス」は、ポルトガル語の Inglez(イングレス=イングランド人)がなまったもの。
英語の England(イングランド)ではなくポルトガル語経由なのは、戦国時代に日本へ来たのがポルトガル人だったからです。

イングランド=「釣り針の地の人々の国」
5世紀ごろ、現在のドイツ北部からやってきたアングル人の土地、という意味です。
彼らと一緒に渡ってきたサクソン人と合わせて「アングロ・サクソン」と呼ばれます。
アングル人の名前は、故郷のアンゲルン地方から来ています。
この地名は、ゲルマン語で「釣り針」あるいは「細い」を意味する言葉に由来するとされます。
この地方にある、釣り針のように細長く曲がった入り江(シュライ湾)の形を指した名前だった可能性があります。
スコットランド=「えり抜きの者たちの土地」
スコット人とは、もともとアイルランドから海を渡ってきた人々を指すラテン語の呼び名でした。
彼らが北部に定住し、その土地の名前になりました。
「スコット」の意味には諸説あります。
古いアイルランド語で「えり抜き」「精鋭」を意味する scoth(スコス)に由来するという説や、ゲール語で「群れ」を意味する言葉から来たという説があります。
ノルウェー=「北への道」
古ノルド語の norðr(ノルズル=北)と vegr(ヴェグル=道)から。
「北へ向かう航路」という意味です。
細長い海岸線に沿って船で北上していく——その航路そのものが国の名前になりました。

ウェールズ=「よそ者の土地」
ゲルマン語の walhaz(ワルハズ)に由来し、「よそ者」「なじみのない人」という意味です。
アングロ・サクソン人から見た呼び名が、そのまま地名として残りました。
一方、ウェールズの人たち自身は自分たちの土地を「カムリ」と呼びます。
こちらは「同胞」「仲間」という意味。
外から見た名前と内から見た名前が、正反対の意味を持っている珍しい例です。
アイルランド=「肥沃な地」
古いケルト語で「肥沃な場所」を意味する言葉に由来するとされます。
現地語(アイルランド語)での国名は「エール」。
この名前は、アイルランド神話に登場する女神エリウとも結びつけられます。
女神の名前自体が同じ語源から来ていると考えられており、「豊かな土地」という感覚が国名の根っこにあります。
デンマーク=「平らな土地の境界」
この地に住んでいたデーン人の名前と、境界や辺境を意味する「マーク」を合わせた名前です。
「デーン」の意味は、多くの語源辞典で「平らな土地」を意味する言葉に由来するとされています。
デンマークは国内でいちばん高い地点でも標高200メートルに届かない、山のない平らな国です。
ただし「マーク」の解釈には幅があり、「デーン人の森」と読む説もあります。
スウェーデン=「我々の国」
この地に住んでいたスヴェーア人の名前に由来します。
スヴェーアには「自分たち」「仲間」という意味があるとされ、つまり「我々の国」ということになります。
フィンランド=「沼の国」
「フィンランド」は、スウェーデン語など北欧の言葉で「フィン人の土地」。
外から付けられた呼び名です。
フィンランド人自身は、自分たちの国を「スオミ」と呼びます。
こちらは suomaa(スオマー=沼地)に由来するという説があります。
湖と湿地の多い国土を考えると、しっくりくる説明です。
アイスランド=「氷の国」
古ノルド語の Ísland(イースランド)、そのまま「氷の土地」です。
ただし実際のアイスランドは暖流の影響で、緯度のわりに温暖。
逆に隣のグリーンランドは「緑の土地」という名前なのに氷に覆われています。
この2つの名前は、ヨーロッパでもっとも有名な「名前と実態のねじれ」です。

エストニア=「東の人々」
ローマの記録に出てくる「アエスティ」という民族名に由来するとされます。
その意味には諸説ありますが、ゲルマン語で「東の人々」「東の道の人々」と解釈する説があります。
現在の国名が定着したのは19世紀。
1857年に創刊された新聞が、この呼び名を国民に広めたと言われています。
ラトビア=「ラトガリア人の国」
ラトガリア人という民族名に、地名を作る語尾を付けて19世紀に作られた比較的新しい国名です。
リトアニア=「雨の多い場所」
「雨」を意味する lietus(リェトゥス)から、「雨の多い土地」を指すという説があります。
ほかに、「統合する」を意味する lieti(リェティ)に由来し、最初の統一を指すという説や、小さな川リエタヴァの名前に由来するという説もあります。
フェロー諸島=「羊の島」
デンマークの自治領。
古ノルド語の Færeyjar(フェーレイヤル)に由来し、fær(羊)と eyjar(島々)を合わせた言葉とする説がもっとも広く知られています。
いまも島の人口(約5万5000人)より羊の数のほうが多いと言われる、名前のとおりの島々です。
グリーンランド=「緑の土地」
同じくデンマークの自治領で、世界最大の島。
国土の8割以上が氷に覆われているのに「緑の土地」です。
これは、10世紀にこの島へ渡った赤毛のエイリークが、入植者を集めるために魅力的な名前を付けたためだと伝わっています。
史上もっとも成功した不動産広告、と言われることもあります。
なお国連の区分では、グリーンランドは北アメリカに分類されます。
COLUMN
イギリスはなぜ4つの国からできているのか
■ 4つの「国」が集まった連合王国
イギリスは、イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドという4つの「国」が集まった連合王国です。
サッカーのワールドカップに4チームが別々に出場できるのも、これが理由です。
■ 別々の王国が、ひとつにまとまるまで
もともとは別々の王国や地域でした。
ウェールズが13世紀にイングランドに併合され、1707年にスコットランドと合同、1801年にアイルランドが加わって現在の形に近づきます。
1922年にアイルランドの大部分が独立し、北アイルランドだけが残りました。
イギリスが4つの国に分かれている理由は、動画でも詳しく解説しています。
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西ヨーロッパの国名の由来

続いて、フランスやドイツなど大陸の中心部です。
ここは「どんな人々が住んでいたか」が国名になっている国が集まっています。
フランス=「投げ槍の民の国」
ゲルマン系のフランク人が建てた国、という意味です。
「フランク」は、彼らが戦いで使った「投げ槍」を指す言葉から来たという説があります。
一方で、フランクには「勇敢な」「自由な」という意味があったとする説もあります。
英語で率直に話すことを frank(フランク)と言いますが、これも同じ語源。
支配者であるフランク人が自由民だったことから、「自由な」「遠慮のない」という意味が生まれました。

ドイツ=「民衆の国」
ドイツ語の国名は Deutschland(ドイチュラント)。
古い言葉の diutisc(ディウティスク=民衆の)に由来し、「民衆の国」という意味になります。
ラテン語ではなく、庶民が使う言葉を話す人たち——という感覚から生まれた呼び名です。
一方、英語の Germany(ジャーマニー)は、ローマ人がライン川の東側を「ゲルマニア」と呼んだのが始まりです。
その意味には諸説ありますが、ケルト系の言葉で「隣人」を意味したとする説や、戦いのときの「叫び声」に由来するとする説があります。
ローマ人は、ケルト人から聞いた呼び名をそのまま使ったと考えられています。
日本語の「ドイツ」は、オランダ語の Duits(ダウツ)から来ています。
オランダ=「低い土地」
正式名称はネーデルラント。
neder(ネーデル=低い)+ land(ラント=土地)で、そのまま「低地の国」です。
国土の約4分の1が海面より低く、名前のとおりの地形をしています。
日本語の「オランダ」は、ホラントという一地方の名前を、ポルトガル語で書いた Holanda(オランダ)から来ています。
ホラントは国の中心となった豊かな地方で、その名前が国全体を指す呼び名として広まりました。
日本にはポルトガル人を通じて伝わったため、「ホ」の音が落ちた形で定着したわけです。
スイス=「酪農場」
国名は、建国に加わった州のひとつ「シュヴィーツ」から来ています。
972年の記録に初めて登場する古い地名です。
シュヴィーツは、古いドイツ語で「酪農場」を意味する言葉がなまったものとされます。
アルプスの牧草地で牛を育てるスイスらしい名前です。
ほかに、森を焼き払って開墾した土地を指すという説もあります。

ベルギー=「怒りに燃える人々の国」
古代ローマの属州ガリアに住んでいたベルガエ人に由来します。
カエサルが『ガリア戦記』で「ベルガエ人はもっとも勇敢である」と書いたことで知られる民族です。
「ベルガエ」は、ケルト系の言葉で「ふくれ上がる」、特に怒りや戦いの興奮でふくれ上がることを意味する語に由来するとされます。
つまり「戦いの怒りに燃える人々」。
カエサルの評価とぴったり重なる名前です。
ルクセンブルク=「小さな城」
首都ルクセンブルク市の名前がそのまま国名になりました。
もとは Lucilinburhuc(ルシリンブルフク)、「小さな城」という意味です。
963年に築かれた小さな城を起点に町が広がり、やがて国になりました。
ちなみに現在の国土は神奈川県とほぼ同じ広さです。
モナコ=「一人で住む者」
古代ギリシャ語の monoikos(モノイコス)に由来し、「一つの家に住む」「一人で暮らす」という意味です。
この地にあったヘラクレス・モノイコスの神殿に由来すると言われています。
ヘラクレスが仲間を連れず一人で祀られていたことから、こう呼ばれました。

オーストリア=「東の国」
ドイツ語の Österreich(エースターライヒ)は「東の国」。
996年の文書に出てくる Ostarrîchi(オスタリーヒ)が起源とされます。
ラテン語では「東方辺境領」(Marchia Orientalis=マルキア・オリエンタリス)と記録されました。
神聖ローマ帝国から見て東の端を守る土地、という位置づけだったわけです。
リヒテンシュタイン=「明るい石」
ドイツ語で「明るい石」という意味のリヒテンシュタイン家が、18世紀にこの地を買い取り、自分たちの家名を国名にしました。
領地を買った貴族が、自分の名前を付けた——という、ヨーロッパでも珍しい成り立ちの国です。
COLUMN
なぜドイツは呼び方が多すぎるのか
■ 国ごとにバラバラの呼び名
ドイツほど、国によって呼び名が違う国はありません。
ドイツ語:Deutschland(ドイチュラント)…民衆の国
英語:Germany(ジャーマニー)…ゲルマン人の土地
フランス語:Allemagne(アルマーニュ)…アレマン族の土地
ポーランド語:Niemcy(ニェムツィ)…しゃべれない人
フィンランド語:Saksa(サクサ)…ザクセン族の土地
■ 最初に出会った部族の名前で呼んだ
理由は、ドイツが多くの国と国境を接しているからです。
どの隣人が、どの部族と最初に接触したか——それによって呼び名が決まりました。
西の隣人フランスはアレマン族の名前で、バルト海を挟んだフィンランドはザクセン族の名前で呼んだ、というわけです。
■ 「しゃべれない人」という呼び名
なかでも強烈なのがポーランド語の Niemcy(ニェムツィ)。
スラヴ語で「話せない人」「黙っている人」を意味します。
言葉が通じない相手を「しゃべれない人」と呼んだわけです。
呼び名の違いを追っていくと、そのままヨーロッパの地図が見えてきます。
ドイツの呼び名の違いは、動画でも詳しく解説しています。
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南ヨーロッパの国名の由来

地中海に面した国々です。
古代ギリシャ・ローマ、そしてフェニキア人の影響で、ここには数千年前の言葉がそのまま残っています。
ポルトガル=「港の港」
ラテン語の Portus Cale(ポルトゥス・カレ)に由来します。
Portus は「港」。
Cale も、ケルト系の言葉で「港」を意味する語から来たという説があり、そうだとすると「港の港」という、港が二重になった名前です。
ただし語源には諸説あり、より有力とされるのは別の説です。
Cale は現在のポルト市の対岸にあった集落の名前で、この地に住んでいた部族カラエキの名前から来たというもの。
隣のスペイン北西部の「ガリシア」地方も同じ語源とされます。
この港町の名前が、やがて国全体の名前になりました。
ポルトガルワインで有名なポートワインの「ポート」も、同じ「港」です。

スペイン=「ウサギの島」
ラテン語のヒスパニアに由来します。
そのもとになったのは、フェニキア人がこの地を呼んだ i-shaphanim(イ・シャファニム)という言葉で、「ウサギ(ハイラックス)の島」を意味するという説が広く知られています。
ハイラックスは、ウサギに似た小動物です。
フェニキア人が、イベリア半島にたくさんいたウサギを、故郷で見慣れたハイラックスと見間違えて名付けたと言われています。
実際、古代ローマ時代にこの地で作られた硬貨には足元にウサギを置いた女性の姿が刻まれ、ギリシャの地理学者ストラボンもこの地を「ウサギの国」と呼びました。
ただし語源には諸説あり、「金属の島」を意味するという説や、「北の島」を意味するという説もあります。
イベリア半島は古代から銀や銅の産地でした。
アンドラ=「巨大な国」
ピレネー山脈の小国。
バスク語で「巨大な」を意味する handia(ハンディア)に由来するという説があります。
面積は東京23区の4分の3ほどの小さな国ですが、まわりを囲むピレネーの山々を思えば、うなずける名前です。
ほかに、この地に住んでいたイベリア人の部族アンドシンスに由来するという説も唱えられてきました。
ただしアンドラの歴史家カルレス・ガスコンは、この部族名の説を明確に否定しています。
ギリシャ=「古き人々の地」
英語の Greece(グリース)は、ローマ人がギリシャ人を呼んだ Graeci(グラエキ)から来ています。
その語源は、ギリシャ語で「年老いた」を意味する graia(グライア)だとする説があり、つまり「古き人々」です。
ギリシャ本土にあった古い町グライアや、その周辺に住んでいた一部族の名前が、ローマ人を通じてギリシャ全体の呼び名になったと考えられています。
一方、ギリシャ人が自分たちの国を呼ぶときは「ヘラス」。
神話の英雄ヘレンの子孫、という意味です。
外から呼ばれる名前と、自分たちが名乗る名前がまったく違う国です。

イタリア=「子牛の国」
古い言葉の vitulus(ウィトゥルス=子牛)に由来し、「子牛の土地」を意味するという説があります。
古代、この地は牛の産地として知られていました。
もうひとつ有力なのが、伝説の王イタルスの名前に由来するという説です。
ギリシャ神話に登場するこの王が治めた土地、という説明になります。
サンマリノ=「聖なる海の男」
4世紀、迫害を逃れてティターノ山に隠れ住んだとされる石工の聖マリヌスに由来します。
サンは「聖」、マリヌス(Marinus)はラテン語で「海の」「海の男」を意味する名前です。
山の上の国なのに、名前の意味は「海」。
聖マリヌスは、アドリア海を渡ってきたダルマチア(現在のクロアチア)の島の出身だったと伝えられています。
彼が作った共同体が、そのまま国になりました。
現存する世界最古の共和国とされ、建国は301年と伝えられています。
バチカン=「予言者の丘」
ローマ市内のバチカンの丘に由来します。
この丘の名前は、ラテン語で「予言者」を意味する vates(ワテス)と関係があるとされ、古代に予言や占いが行われた場所だったと伝えられています。
ただしこれは古代ローマの学者が残した説明で、現在は、この地にあったエトルリア人の集落の名前から来たという説のほうが有力とされています。
世界最小の国で、面積は0.44平方キロメートル。
東京ディズニーランドより小さい国土です。
マルタ=「蜂蜜の島」
ギリシャ語の meli(メリ=蜂蜜)に由来するという説があります。
マルタは古代から蜂蜜の産地として知られ、ローマ人はこの島を「蜂蜜の島」と呼んでいました。
ほかに、フェニキア語の malat(マラト=避難所・港)に由来するという説もあります。
スロベニア=「言葉が通じる人々の国」
南スラヴ系の言葉で「スラヴ人の土地」という意味です。
「スラヴ」という言葉自体の語源には諸説ありますが、「言葉」を意味する slovo(スロヴォ)に由来し、「言葉が通じる人々」を指したとする説が知られています。
ドイツのコラムで紹介したポーランド語の Niemcy(ニェムツィ=話せない人)と並べると、よくわかります。
自分たちは「言葉が通じる人」、隣の民族は「しゃべれない人」。
スラヴの人々は、言葉が通じるかどうかで仲間とよそ者を分けていたわけです。
クロアチア=「守る人々の国」
現地では「フルヴァツカ」。
9世紀の記録に現れる Cruati(クルアティ=フルヴァト人)という民族名に由来します。
民族名の意味には諸説ありますが、有力なのは、黒海の北に住んでいたイラン系の遊牧民の言葉から来たという説です。
「守る人」「家畜の番人」を意味する言葉が、スラヴ人の呼び名として取り入れられたと考えられています。

ボスニア・ヘルツェゴビナ=「川と公爵領」
前半のボスニアは、国土を流れるボスナ川に由来します。
後半のヘルツェゴビナは、ドイツ語の Herzog(ヘルツォーク=公爵)から。
15世紀にこの地を支配した領主が公爵の称号を名乗ったことに由来します。
つまり「ボスナ川の地と、公爵の領地」という意味の連結国名です。
セルビア=「一族」
語源には諸説ありますが、もっとも有力なのは、古いスラヴ語で「一族」「身内」、あるいは「同盟」を意味したという説です。
同じ集団に属する仲間を指す言葉が、そのまま民族の名前になったと考えられています。
ほかに、イラン系の言葉に由来するという説もあります。
はっきりしているのは、現在のドイツ東部に住むソルブ人の名前と同じ語源を持つということです。
バルカン半島とドイツ——遠く離れた2つの民族の名前が、元をたどると同じ言葉から来ています。
モンテネグロ=「黒い山」
ヴェネツィア語で「黒い山」という意味です。
国土にそびえるロヴチェン山が、深い森に覆われて黒く見えたことに由来します。
現地語での国名は「ツルナ・ゴーラ」。
これもそのまま「黒い山」です。
名前を翻訳しただけの国名という、珍しい例です。
北マケドニア=「北の高地の人々の国」
2019年に「マケドニア共和国」から改称しました。
ギリシャにも同じ名前の地方があり、長年にわたって国名をめぐる対立が続いていたためです。
もとのマケドニアは、ギリシャ語で「高い」「細長い」を意味する言葉に由来し、「高地の人々」を指したとされます。
アルバニア=「鷲の国」
2世紀の記録に登場するアルバノイという部族名に由来します。
一方、アルバニア人は自分たちの国を「シュチパリア」と呼びます。
アルバニア語で鷲を意味する shqiponjë(シュチポニェ)に由来し、「鷲の国」を指すという説が広く知られています。
国旗に描かれた双頭の鷲は、中世からこの地の王家が紋章に使ってきたものです。
ただし語源には諸説あり、アルバニア語そのものを指す shqip(シュチプ)から「アルバニア語を話す人々の国」とする説もあります。
コソボ=「クロウタドリの野」
セルビア語の「コソボ・ポリェ」に由来します。
kos(コス)はクロウタドリ、polje(ポリェ)は野原。
つまり「クロウタドリの野」です。
1389年にこの平原で行われたコソボの戦いは、セルビアの歴史において特別な意味を持つ出来事として語り継がれています。
キプロス=「銅の島」
「銅」に由来するという説があります。
キプロスは5000年前から銅を掘ってきた島で、ラテン語で銅を意味する cuprum(クプルム)、英語の copper(カッパー)は、逆にこの島の名前から生まれたと考えられています。
ほかに、古代ギリシャ語で「イトスギ」を意味する kyparissos(キュパリッソス)に由来するという説もあります。
イトスギも、この島に多い木です。
国の名前が、金属の名前の語源になった——という、珍しい例です。
なお国連の区分では、キプロスは西アジアに分類されます。
東ヨーロッパの国名の由来

最後は東側です。
ここはスラヴ系の民族名と、川の名前が国名になっている国が集まっています。
なお、ロシアとトルコの国名の由来は、アジア編で解説しています。
ポーランド=「野に住む人々の国」
ポラン族という部族名に由来します。
ポラン(Polanie=ポラニェ)は「野」を意味する pole(ポレ)から来ていて、「平原に住む人々」という意味です。
ポーランドの国土は、その名のとおりほとんどが平野。
ヨーロッパ有数の農業国で、名前のとおりの「野の国」です。
一方で山脈のような自然の壁がないため、歴史の中でたびたび周囲の大国と国境を争ってきました。
なお「開墾する人」「開拓者」を意味する古い言葉に由来するという説もあります。

チェコ=「一族の人々」
言葉の由来には諸説ありますが、チェコ語で「一族」を意味する čeleď(チェレジ)や、「人」を意味する člověk(チュロヴィエク)と同じ語根から来たとする説があります。
建国の伝説では、始祖チェフの名前に由来するとされます。
チェフとその兄弟が新しい土地を求めて旅をし、たどり着いた山の上から見た景色を気に入って住み着いた——という物語です。
スロバキア=「言葉が通じる人々の国」
スロベニアと同じく「スラヴ人」に由来します。
名前が似ているのは偶然ではなく、語源が同じだからです。
ハンガリー=「十の矢」
トルコ系の言葉 on-ogur(オン・オグル)に由来し、「十の矢」つまり「十の部族の同盟」を意味します。
この地に移り住んだ遊牧民の連合体を指した呼び名です。
一方、ハンガリー人は自分たちを「マジャル」と呼びます。
ウラル山脈の周辺から移り住んだとされる民族で、ハンガリー語はまわりの国々とは系統のまったく違う、ウラル語族の言葉です。
なお、ハンガリーは「フン族の国」と紹介されることもあります。
これは中世のハンガリー人自身がフン族の末裔だと信じていたことから広まった言い伝えで、国名の語源としては「十の矢」説が有力です。

ルーマニア=「ローマ人の国」
ローマ帝国がこの地(ダキア)を征服し、住民がラテン語を受け継いだことに由来します。
スラヴ系の言葉を話す国々が多い東ヨーロッパで、ルーマニア語はラテン系。
フランス語やイタリア語の親戚です。
「ローマ人の国」という名前は、言葉の面でも正確です。
ブルガリア=「混ざり合った人々の国」
7世紀にこの地に国を建てたトルコ系のブルガール人に由来します。
「ブルガール」は、トルコ系の言葉で「混ぜる」「混ざり合う」を意味する bulga(ブルガ)から来ているとされ、「混ざり合った人々」という意味になります。
建国した民族はトルコ系でしたが、のちにスラヴ化し、現在のブルガリア語はスラヴ系の言語です。
ウクライナ=「辺境の地」
スラヴ語の kraj(クライ=端)や okraina(オクライナ=辺境)に由来し、「辺境の地」を意味するという説があります。
ただし議論はいまも続いていて、同じ語根から「国土」「領域」を意味するという説もあります。
興味深いのは1690年に描かれた東欧の地図で、キーウ周辺は「ウクライナ、あるいはコサックの国」と記され、その隣のロシア南部の国境地帯は「オクライナ(辺境)」と別に記されています。
少なくともこの時代、2つは別の言葉として使われていたことになります。
ベラルーシ=「船を漕ぐ白い人々の国」
「白い」を意味する bel(ベル)と、古代の国ルーシ(キエフ・ルーシ)を合わせた名前です。
ルーシは、北欧の古い言葉で「船を漕ぐこと」を意味する語に由来するとされ、ロシアの国名の語源でもあります。
なぜ「白」なのかは諸説あり、方角を色で表す習慣から「西のルーシ」を指したという説や、モンゴルの支配を受けなかった「自由な」地域を意味したという説があります。
モルドバ=「猟犬の名の川」
国土を流れるモルドバ川に由来します。
川の名前の由来として伝わるのが、建国伝説に登場する猟犬モルダの物語です。
狩りの途中でこの川に落ちて死んだ犬の名を、川に付けたと言われています。
言語学的には、ゴート語で「塵」「泥」を意味する mulda(ムルダ)に由来するという説もあります。
まとめ|ヨーロッパの国名は「どんな人々か」で決まる

50の国と地域の名前を和訳してみると、はっきりした傾向が見えてきます。
ヨーロッパの国名の多くは、そこに住んだ民族の名前から来ています。
そして民族の名前をさらにたどると、「投げ槍の民(フランス)」「釣り針の地の人々(イングランド)」「怒りに燃える人々(ベルギー)」「言葉が通じる人々(スロベニア・スロバキア)」「混ざり合った人々(ブルガリア)」のように、その人々がどんな人たちだったのかが見えてきます。
もうひとつの特徴は、外から呼ばれる名前と、自分たちが名乗る名前が違う国が多いことです。
ウェールズは外からは「よそ者の土地」、内からは「同胞(カムリ)」。
ギリシャは外からは「古き人々」、内からは「英雄ヘレンの子孫(ヘラス)」。
ドイツにいたっては、隣の国ごとに呼び名が違います。
多くの国が国境を接するヨーロッパでは、隣人がどう呼んだかが、そのまま国の名前として残ってきたわけです。
ちなみに「ヨーロッパ」という言葉自体の語源にも、諸説あります。
ギリシャ神話の姫エウロペに由来するという説と、アッシリア語の erebu(エレブ=日の沈む地)に由来するという説です。
後者だとすると、ヨーロッパは「日の沈む西の地」。
大陸の名前そのものが、東の人々から見た呼び名だったことになります。
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